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幕張本郷にある小児科 岩田こどもクリニックはこどもたちの笑顔が大好きです。

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〒262-0033 千葉市花見川区幕張本郷2-36-21 ワンダーランド1A

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子育て待合室2009年

2009年01月06日
ささやかな希望を明日に託して
これは、2009年1月に岩田こどもクリニックの待合室内に掲示されたエッセイです。

アメリカの金融破綻に端を発した未曾有(み・ぞ・う)の経済危機が世界中を襲っています。日本でも、世 界に名を馳せたトップメーカーが期間労働者を大量解雇し、多くの派遣労働者も職を失いました。日比谷公 園とその周辺に緊急設営された「年越し派遣村」には、仕事を失うと同時に、会社の寮を追い出されて住居 まで失ってしまった人たちが数百人も集まり、寒々と年を越しました。一流企業の倒産件数も増えて、先の 見えない、とてつもない不安感が世の中全体をおおっています。百年に一度ともいわれる大変な不況です。 そんな時代背景の中で、新しい年が明けました。
 一方では今月、アメリカ合衆国の歴史が始まって以来の初の黒人大統領となるオバマ氏が、就任式を迎え ます。良くも悪くも新しい時代の幕開けです。オバマ新大統領。彼の演説が大変にすぐれていることは、す でに定評があります。ただ単に演説が上手というだけではなく、そこには国民に寄り添う優しいハートが感 じられると言われています。アメリカ国民だけでなく、世界中の人々の心をとらえているようで、強いリー ダーシップを持つ彼が語る、力強く、そして耳になじみやすい言葉は、人々の未来に希望を抱かせてくれる のかもしれません。
 新聞で、こんな内容のことが書いてあるのを見つけました。
 アメリカの素朴な夢。オバマ氏がそう信じているのは、「夜、こどもたちを寝かしつけながら、彼らが衣 食足りて、危害から守られていると実感できること」。どこの国であれ、それは子を思う親ならば誰もが抱 く、ささやかな願いだと思います
それがなかなか容易には実現できないところに、アメリカ社会の抱える大きな問題があるのでしょう。
 ぜいたくは言わずとも、せめて、こどもたちが安心して眠り、空腹を満たし、清潔で暖かな衣服を着て過 ごせること。病気や自然災害や犯罪からこどもたちを守ってあげられること。本当にささやかな望みではあ るけれど、もしかするとそれすら手に入らないこともあるかもしれない、そんな社会全体の不安が今、この 日本でも存在しています。
 経済危機や社会不安は、私たち個人の力ではどうにもなりません。けれども、いつの時代でも、毎日を生 き抜いていく力は、個人一人ひとりのものです。一個人の人生は他人まかせにはできないし、誰も代わるこ とはできません。今、どんなことがあろうとも、希望を失わずに、明日に望みを託しましょう。
 これまでに何回も観た大好きな映画「風と共に去りぬ」のラストシーンで、失意のどん底にありながらも 主人公スカーレット・オハラが言うセリフに、いつも励まされます。
 Tomorrow is another day.
明日は明日の風が吹く、という名訳があります。今はもう、とても悲しいし、とても疲れていて何も考えた くないけれど、明日また故郷の地に戻って考えよう・・・スカーレットのけっしてひるまない気持ちが、ス クリーンから伝わってきます。映画はそこで終わっても、主人公はそれからも強く生きていくことを観てい る人に信じこませるようなラストシーンです。
明日は明日の風が吹く。今はつらいことが多くても、明日にはきっといい方向に向かってくれることでしょ う。いままで気がつかなかったような、何らかの解決策も見つかるかもしれません。
 この困難な時代にこそ、前向きな気持ちを失わずに、一日一日を過ごしていけたらいいですね。

2009年02月04日
全国的にマスクの売れ行き絶好調
これは、2009年2月に岩田こどもクリニック待合室に掲示されたエッセイです。

過去2シーズンに比較すると、今シーズンはインフルエンザの患者発生数が大幅に増加しています。そのた めか、今年はマスクの売れ行きが好調だそうです。新型インフルエンザに備えて、早くもマスクの大量備蓄 を始めている人がいるのかもしれません。そろそろ花粉症対策にと買う人も多いかもしれません。
 厚生労働省では今年度、インフルエンザ対策の一環として、「あ、その咳、そのくしゃみ~咳エチケット してますか?~」という標語をかかげました。各医療機関でもそのような主旨のポスターを掲示していま す。
 この「咳エチケット」とは、咳\くしゃみが出たらマスクを着用する、マスクを持っていなければ、ティッ シュなどで口と鼻を押さえ他の人から顔をそむけて離れるなど、他の人にうつさないような行動をとること を指しています。
 実際にマスクの威力にはすごいものがあります。ただし、感染防御効果については、その材質によって大 きな差があることをご存知でしょうか?
大雑把に言うと、病原体ウィルスを含んでいる飛沫を通さないような不織布で作られたマスクがおすすめで す。従来からあるガーゼのマスクでは、防寒はともかくとして、感染防止にはあまり役に立ちません。逆 に、最高機能を持つマスクは、感染防御の観点からすると100%近い効果があるともされていますが、非常 に気密性が高いがために、着用していると息苦しくなってしまい、長時間の使用に耐えないこともあるよう です。通常の場合には、ふつう薬局などでよく売られている不織布のマスクで充分でしょう このクリニックでも、咳やくしゃみのあるとき、または、インフルエンザが疑われるようなときには、マ スクを着用しての受診をお願いしています。これは、待っている間、ほかの人にうつさないためのエチケッ トです。さらに、本人にとってもマスクを着用することで、自分の吸う空気が自分自身の呼気により加湿さ れるので呼吸が楽になり、また、咳やくしゃみが出にくくなるというメリットがあります。咳やくしゃみを 連発している人がいたら、マスクをするようにお願いすることも、社会全体のために、ぜひ、やっていきた いことです。
 風邪やインフルエンザにかからないように、ふだんから気をつけて生活をし、心がけていくことは、いつ かやってくるかもしれない、新型インフルエンザ大流行のときにも必ず役に立つことです。
人類が感染症を100%コントロールすることなど、しょせん不可能なのです。せめて、自分でできることを せっせと実践して自分自身を守ろうという自己防衛の気構えが、感染症と戦うためには必要です。ふつうの インフルエンザにかかりやすい人は、新型インフルエンザにもかかりやすい、という説が出ています。もっ ともなことだと思います。
ふだんから食生活に気を配る、前もってワクチンを打つ、うがいや手洗いをよくする、人ごみにはなるべく 近寄らない、空気が汚染されやすい閉鎖空間に身をおかないようにする、予防的にマスクをするなどなど。 徹底して行うことで、必ず効果は現れます。
 新型インフルエンザに備えて、という意味もかねて、とりあえず、インフルエンザ流行期には、不織布の (!)マスクを用意しておきましょう。

2009年03月06日
テレビにベビーシッターをさせないで
これは、2009年3月に岩田こどもクリニック待合室に掲示されたエッセイです。

いま、子育て中の親たちは、生まれたときからお茶の間でテレビがついていた世代です。テレビがついて いてあたりまえの生活。それが、じつは人間の育ちに大変な悪影響を及ぼしているのです。
 テレビ視聴時間が長くなるほど中毒症状を呈し、こどもたちは外遊びをしなくなり群れてこども社会を形 成することもなくなりました。一方では、大勢のこどもたちが一緒に遊べる原っぱのような自由空間も、消 えてしまいました。たまり場がないために、こどもは乳児期から自宅の密室内で過ごし、母子が孤立無援の 日々を送るようになってしまいました。当然、母親もイライラがつのります。
テレビを見せておけば静かでおとなしいのに、テレビを消したとたんに大声で泣いて泣きやまない、そんな 乳幼児が多くなってきているそうです。その子たちにとって、テレビを見ることは「快」、テレビが消えて いることは「不快」。こんな単純で無味乾燥な生活が、毎日毎日、密室内で繰り返されていきます。まさに テレビ中毒とその禁断症状の繰り返しです。
テレビに慣れてしまった子は、母親も含めた自分以外の他人の気持ちを理解する力が育ちにくく、自分にと って「快」か「不快」があるだけのキレやすい性格ができていくとも考えられています。
 たとえば夕方、食事の準備で忙しいときなどは、たえず動いて目が離せない小さな子は、わずかな時間で もおとなしくしていてほしい、と思うものです。テレビの前に座らせておけば、とりあえず動かないでじっ としていれくれる、その間、お母さんはせっせと食事を作り、できあがったらパッと食べさせる・・・。それ はとても効率的なやり方でしょう。
 子のほうは、テレビを見ている間に、誰かが作ってくれた食事が目の前に出てきて、それを食べるだけ。 でも、そんな魔法みたいに手軽で苦労のない安易な生活は、いつまでも続かないのです。
 お母さんが毎日、どんなに心をこめておいしい食事を作ったとしても、テレビ漬けになっている子は、好 きか嫌いか、食べたいか食べたくないか、という二者択一的な思考をするのでしょう。気に入らないものに はそっぽを向いて、またテレビ漬け。すぐキレルのです。
 思いきってテレビは消して、お母さんが立ちっぱなしで食事の用意をしているところをしっかりと見せて あげましょう。おなかがすいていたら、ときどきつまみ食いをさせてあげたっていいでしょう。毎日毎日、 疲れているときでも、こんなにも家族のために働いている、という姿を幼い子の目に焼き付けておきましょ う。もちろん、赤ちゃんにはまだ理解できないことかもしれません。でも、だんだんとわかるようになっ て、ああ、お母さんってこうやって今までずーっと、自分のためにご飯を作っていてくれたんだ、と気づく 日がいつかくるのです。そして、こう、聞いてくるかもしれません。
「ねえ、お母さん、なにか手伝えること、ある?」
親が働いている間もテレビを見せていては、こどもの口からこんな言葉を聞くことは絶対にないでしょう。 働く親の背中を見せるとは、こういうことです。そして、子は生活者としての親をいつのまにか見習っていくのです。
どの子もみんな、親が大好きです。親がなにかに一生懸命に向かい合っている姿を見るのも好きなのです。 きっと自分も親と同じ事をしてみたくなることでしょう。
テレビのない時代には、どの家でも見られた親子の交流が、わずか50年の間に消えてしまいそうです。これ は現代の大きな悲劇です。時代に流されずに、あるべき姿の子育てに戻したいものですね。
勇気を出して、テレビを消しましょう。

2009年04月04日
テレビにベビーシッターをさせないで Part Ⅱ
これは、2009年4月に岩田こどもクリニック待合室に掲示されたエッセイです。

「あっー、先生の書いていること、本当だ!」 
先月、『テレビにベビーシッターをさせないで』というタイトルで、この「子育て待合室」の文章を書いた ところ、診察までの待ち時間にそれをお読みくださったあるお母さまの反応、これは、思わず心の中でわき あがってきた声だそうです。 
3月のその¢子育て待合室」は、こんな内容でした。 
・長時間テレビ漬けになっているこどもたちは、イライラしてキレやすく、自分の気持ちを相手にうまく伝 える表現力が乏しく、また、他人の気持ちを理解する力も育ちにくいこと。  
・テレビを見ている間に食事が目の前に出てくるような生活は、こどもたちにさせたくないこと。 
・テレビは消して、家族のために台所に立って一生懸命に食事の用意をする親の姿を毎日見せていると「ね えお母さん、何か手伝えることある?」と、いつか、こどもが聞いてくるかもしれないこと。 
・働く親の背中を見せることで、子は、生活者としての親を見習っていくのだということ。 
 診察室に入るなり、そのお母さまは目を丸くして、それはもう、診察どころではないような興奮した雰囲 気で、一気にこんなお話をしてくださいました。 
・・・・・岩田こどもクリニックでの1歳半個別健診のときに、テレビやビデオは消しましょう、というお話 をされたので、その日から今まで、この子にテレビを見せていません。本当に、大人が見ているニュースと 天気予報くらいしか、この子は目にしていないのです。 
 だから、夕食のしたくをしている間もテレビはついていないので、この子はキッチンで私のそばにいて過 ごしてきました。そうやって夕食のしたくをするのを近くでずっと見てきて、ある時、「ボクもお手伝いが したい」と言ってきたのです。毎日毎日、夕方の時間をそうして過ごしているうちに、お料理の手順もわか ってきたようで、今では、調味料を正確な順番で手渡してもくれます。 
 夜、パンを焼くときには、材料をきちんとセットすることも自分からやってくれます。 
 だから、さっき待っている間に、「子育て待合室」を読んでいて、本当にもうびっくりしてしまいまし た。先生の書いた通りのことがこの子に起きていました・・・・・・ 
そのお子さんはまだ、たった3歳の男の子なのです。毎日、キッチンでの母親との交流をどんなに楽しんでき たことでしょう。大好きなお母さんのお手伝いを自分はしてあげられる、ということが、もう、とてつもな くうれしいのです。 
お母さまとそんなお話をしている間、その男の子は、とても満ち足りた、おだやかな笑顔で、聞いていまし た。ときどき「うん、うん」とあいづちをうちながら。 
 本当に魔法のような奇跡のようなお話ですね。  
あらゆる可能性を秘めた未来を抱く発展途上のこどもたちには、こういうことがあるのです。信じられない ようなことが、こどもには起きます。こどもは育て方ひとつで、こんなにも変わるのです。 
 また一つ、心温まる、すてきなお話を聞くことができて、小児科医をやっていて本当によかった、と思え たひとときでした。 
2009年05月03日
得体の知れない感染症
これは、2009年5月に岩田こどもクリニック待合室に掲示されたエッセイです。

大型連休に入る直前に、新型インフルエンザ発生のニュースが世界を揺るがしました。
メキシコで豚インフルエンザに感染した患者が多数発生している、というニュースが流れたと思ったら、あ っという間に、感染はまたたく間に地球規模に拡がりました。
ほどなく、成田空港に着陸した飛行機の乗客の一人が、国内で初めて新型インフルエンザに罹患している疑 いが持たれました。このような場合に備えて、水際で感染症の国内流入を阻止すべく、あらかじめ決められ ていた行動計画に従って、機内で乗客の健康チェックが実施されたのです。そして、疑い患者はもちろんの こと、周囲の座席に座っていた2次感染のおそれのある約10名の乗客も、とりあえず検査結果が出るまで、 空港近くの宿泊施設に留め置かれました。関係のなかった多くの乗客さえも、数時間にわたり機内に拘束さ れ、乗り継ぎ便を逃してしまった人たちも出たようです。
 幸いなことに、翌日に出た確定診断の結果は陰性だったので、疑い患者とその他の乗客は早々に解放され たと思われますが、もし、陽性だった場合には、発症の危険なしとの判断ができる10日間ほどは、隔離され たままの状態で留め置かれる運命にあったのです。
 当事者にしてみればおそらく、なんと理不尽なこと、と思うでしょう。けれども未知の感染症への対応と しては、これは適切な処置なのです。すべての人類が免疫力を持たないような新しい感染症の場合には、侵 入を水際で阻止するために、一見、過剰とも思われる対応が必要です。
 未知の感染症ではありませんが、数年前に、修学旅行でカナダを訪れた日本人高校生の団体の中に、麻疹 を発症している生徒のいることが発覚しました。そしてなんと、その団体全員が飛行機を降りるとすぐホテ ルに連れて行かれて、そこに留め置かれたまま旅行予定だった数日を過ごし、そのまま帰国の途についたの でした。麻疹という病気の感染力の強さを裏付けるような話ですが、水際対策というのは、これほどに徹底 して実施されるべきものなのです。当時、麻疹ワクチン接種率が現在よりもさらに低く、発生患者数も多 く、"麻疹輸出国"の異名を取っていた日本は、麻疹患者の発生がほとんどなかったカナダ側から警戒されてい たのでしょう。
 今回の新型インフルエンザでも、水際では同じような措置がとられました。どのような病気なのかすでに 十分に理解されている麻疹でさえそうなのですから、今回の新型インフルエンザのような得体の知れない感 染症について、そのように処することは当然といえば当然でしょう。
 この新型(豚)インフルエンザすなわちA型インフルエンザH1N1は、これまで新型インフルエンザにな るであろうと想定されてきた、高病原性鳥インフルエンザH5N1にくらべると、今のところ、ずっと弱毒性 のようです。それでも、人-人感染を繰り返すうちにウィルスが変異を繰り返して、強い毒性を獲得するこ ともあるそうです。
油断は禁物です。まん延すれば、スペイン風邪のように、2~3年は流行が続くかもしれないとも言われてい ます。最新の情報に注意を払い、なるべく社会経済活動に大きな損害を与えることなく、感染の拡大を防止 していかなければなりません。
個々人のレベルでできることは、もはやマスコミなどでも言い尽くされていますが、とても大切なことで す。
「うがい、手洗い、マスク、人ごみを避ける。不摂生をせず、健康管理に気を使う。」
 一人ひとりが、自分と家族の身を守っていくよう精いっぱいの努力をするのが一番肝心なことです。

2009年06月15日
よその大人と話をする
これは、2009年6月に岩田こどもクリニック待合室に掲示されたエッセイです。

最近のこどもたちには、こういう機会が少なくなっているような気がします。
 マンション住まいであれば、お隣さんと顔を合わせることもあまりないかもしれません。こどもだけで、 家から少し離れたところに遊びにいくことも、今の時代には、なかなか難しいかもしれません。幼稚園や学 校が終わってからも、いろいろな塾やおけいこごとに忙しく、こどもたちはゆとりのない生活をしているこ とも事実でしょう。そんな背景も手伝ってか、こどもたちは小さいときからずっと、親の目の行き届くとこ ろで生活しているか、あるいは保育園・幼稚園や学校の先生など、いつも顔見知りの大人としか話をしない 生活になっていることが多いのではないかと思います。
 先週、2回にわたって、嘱託医をしている保育所に、健診に行ってきました。
 第1日目は乳児クラスが対象でした。お昼寝が終わったばかりの小さな子たちは、泣いたり、びっくりした り、まだ目が覚めきらず何がなんだかわからなくてボーっとしていたり。各人各様に反応がまるで違ってい て、ちょっと楽しい光景でした。
 第2日目は、3歳から6歳の幼児クラスが対象。初めは5~6歳の就学前児童、いわゆる年長児です。みん な、背もぐっと高くなり、姿勢もよく、ピシッとしていました。
「こんにちは」と言えば、すぐさま返ってくる「こんにちは」。「お名前は?」「何歳ですか?」の問いか けにも、間を置かず、それぞれに答えてくれます。ちょっと恥ずかしいのか、小さな声の子もいますし、元 気いっぱいの大きな声で堂々と答えてくれる子もいます。
 その次は5歳児。そして4歳児へと、健診の対象が、だんだん低年齢になるにつれ、答える様子に個人差が 見られるようになってきます。それでも、皆それぞれ一生懸命に答えようとしてくれました。
おもしろいのは、3歳児クラスです。
 順番が来ると、すぐさま大きな声を出して、自分の名前と年齢を言おうとするのです。言い終わるのを待 ってから、「こんにちは」と声をかけても「・・・・・」。あいさつが返ってきません。こちらが先に「お 名前は?」と聞いた時も「・・・・」と詰まって、何も言えなくなってしまいます。
何人か様子を見ているうちに、なんとなく想像がついてきました。どうも、小さい子は小さい子なりに「自 分の名前と年齢だけはちゃんと言いましょう。」と担任の先生に教えられているのですね。 順番を待って いるこどもたちを横目で観察していると、小さなからだ全体で緊張しきって、かしこまって座って待ってい ます。一人ひとり、自分の健康調査表をクシャクシャにならないように注意しながら大事に持っています。 きっと「自分の名前が呼ばれたら、あそこまで行って、これを渡して、すぐに自分の名前を言って、3歳で す、ってちゃんと言うんだ」と強く心の中で思って、準備しているのですね。もうそれだけで目いっぱい。
その様子がなんともカワユイのです。緊張のあまり、自分の順番が来ても席を立てずに、次の席の女の子に 抜かされてしまう子もいました。それは、ふだんのその子からはかけ離れた姿だったのではないかと想像し ています。きっと彼にとっては大きな冒険だったのでしょう。
ごく短い時間ではありますが、お友だちや先生の見守る中で、自分一人で、よその大人と向きあい言葉を交 わす、という経験が、とても貴重な人間教育にもなっているのだな、と納得しながら健診を終えました。

2009年07月04日
スローフード スローライフ  
これは、2009年夏に岩田こどもクリニック待合室に掲示されたエッセイです。

採りたてのわらびを調理したのは、初めてです。
 一緒に送られてきた、『築200年の古民家に住むおばあちゃんの囲炉裏の灰』を水に混ぜて沸騰させたあ と火を消し、その中にわらびを一昼夜浸しておくのです。そのあと水洗い。洗うほどにつやつやとした美し い深緑色が冴えていきます。口に入れると、ほのかな苦味もまた、採りたての新鮮さを伝えてくれるようで す。
 そして蕗(ふき)も。ゆがいたあとで一本一本くるりと薄い皮をむくのですが、指先の皮がふやけてしま うくらいに手間と時間がかかります。そうしてていねいに皮を取り除いてやると、食べたときの口当たりが 柔らかで、しかも歯ごたえも残っている絶妙の食感が味わえます。新鮮なのでとにかく香りが一番。そして ほんの少し、苦味も感じます。透き通るような淡いグリーンの目に鮮やかなこと。
 こうして、ゆっくりゆったりと調理をし、さまざまな感覚を通して野菜の持ち味を慈しむことで、とても ぜいたくな時間を過ごしました。少し手間をかけるだけで、こんなにも豊かな日常が拡がる、ということに 気づかされました。これぞスローフード、スローライフと実感しました。
 わらびにしても、蕗にしても、調理済みでパッケージや瓶詰めになって売られているものを買ってきた り、いただいたりして食べることがほとんどでした。売っている値段もたいして高くありません。"作るより 買ってくる方が安い"のが現実です。自分で調理する時間と手間、面倒くささ。多くを期待しなければ、出来 合いのほうが、ある程度の品質も保証され、何よりもすぐ食べられて簡単です。
そんなことがあたりまえの生活に、すでに私たちはどっぷりと漬かってしまっています。味や鮮度は多少劣 っても、食べることにそんなに手間ひまをかけていられない、というのが、忙しい現代人のホンネでしょ う。さらには、冷凍野菜を冷凍庫に常備して、いつでも気軽に利用したりもしています。どこの国の誰が、 いつ、どこで作ったのかなど、まったくわからないような出所不明の食品を、季節感も度外視して平気で食 べ続ける生活・・・・。
でも、それが本当にいいことなのだとは、誰も思っていないのかもしれません。ただ、都会に暮らす人間の 習慣として、いつのまにか、そうなってしまっただけなのかもしれません。
今回、ありがたいことに、思いがけず、こうして食の原点を考えさせられる経験をすることができました。 東京生まれの東京育ちなので、今までにはなかった鮮烈な体験でした。
わらびも蕗も、じつは2年ほど前に信州小川村に引っ越して行かれたKさんが経営する農園「信州風土や」さ んから通信販売で購入したものです。Kさんご一家が心をこめて作ったほかの野菜たちも一緒に送っていただ きました。口に含むと、新鮮な野菜の味が広がってくるのと同時に、幕張本郷にいらした頃にかかりつけの 患者さんだったKさんのご家族たちの笑顔が目に浮かびます。
 新しく農業を始めるために会社勤めをやめて、まだ小さかったお子さんたち3人とともに、長野県に転居な さったのでした。大変に勇気ある決断だと、びっくりしたことを思い出します。
野菜は無農薬有機栽培だそうです。手間ひまかけて大切に育てられていく野菜たち。お子さんたちもまた、 豊かな自然とゆったりとした時間の流れの中で、すこやかに育っていることでしょう。
 ホームページで野菜づくりの様子は拝見していたのですが、今回初めて、注文をしてみました。見たこと もない種類の野菜もあって、眺めていても楽しいものでした。
 作り手から直接届いた新鮮な野菜に、時間をかけて調理してゆったりと味わう。なんとぜいたくな生活。 これが、地に足をつけた堅実な人間の営みである、という発見もまた、新鮮でした。


2009年09月02日
新型インフルエンザ 重症患者さんへの思いやり
これは、2009年9月に岩田こどもクリニック待合室に掲示されたエッセイです。

いよいよパンデミックの様相を呈してきた新型インフルエンザA/H1N1 。2学期も始まり、これから学校を 中心にどんどん患者さんが増えて、流行のピークは10月頃ではないかとされています。 
 新型インフルエンザは、誰もが免疫力を持たないため、今後2~3年かけて、大部分の人がかかる病気で す。かかっても大半の人は軽く済んでいますが、すでに国内でも重症例・死亡例が出ています。 
 患者数が増えるにつれて、やはり一定の割合で増えてくる重症の患者さんたちをどう守っていくかが、医 療面での大きな問題になっています。症状の重い人たちが安心して、迅速に、適切な治療が受けられるよう に、社会全体で守っていく必要があります。 
重症化する可能性があるのは、喘息や糖尿病、心臓病、透析を必要とする腎疾患などの持病がある人、妊娠 している人などです。この方たちは、ふだんからかかりつけ医によく相談しておき、体調がおかしいと思っ たらなるべく早く受診するようにしていただきたいものです。 
時間外の救急医療は、このような方たちの緊急時にこそ役立てたいものです。インフルエンザにかかると重 症になりやすい方たちのために、救急への道を譲りましょう。 
より重症で、より緊急性のある患者さんへの医療を優先して守るために、軽症の方は時間外救急への受診は なるべく控えてくださいますよう、お願いいたします。 
今後、時間外救急は相当の混雑が続きます。とくに発症直後の、身体に大きな負担がかかる時期に、混み合 う待合室で3~4時間も待つのは、かえって病状を悪くしてしまうことも考えられます。 
ふだんから体力もあり、とくに持病もなく、普通の風邪と変わらない程度に症状の軽い患者さんは、一晩待 ってから翌日、比較的待ち時間の短い昼間のうちに、かかりつけ医にかかるようにしても大丈夫でしょう。 持病を持たない人のほとんどは、軽い症状で終わっているようですし、さらに海外では抗インフルエンザ薬 を投与せずに自然治癒するケースも多く経験されているようです。 
とはいえ、初めから軽く見ていいというわけではありません。万が一、意識状態がおかしかったり、呼吸困 難があったりする場合には、すぐに受診するようにしてください。 
いつ受診するかというのは、どんな病気でも判断が難しいものかもしれません。大切なのは、たとえ基礎疾 患などの背景がなくても、しっかりと一人ひとりの状態をよく把握することです。 
 インフルエンザは、新型も、毎年流行する季節型も、発熱してからすぐに受診したところで、診断がつき ません。早すぎると迅速検査の正確な結果が出にくく、症状がある程度そろってからでなければ、ほかの発 熱性疾患との区別をつけることも困難です。 
一方で、抗インフルエンザ薬は発症後48時間以内に使うと、症状を抑える効果があるとされています。受診 のタイミングを考えるときのひとつのヒントになるかもしれません。 
新型インフルエンザは、人類を襲う自然災害ともいえる体験です。 
かからないようにするには、念入りな手洗い、うがい、人ごみを避けること。かかってしまったら、1週間か つ解熱後2日間はしっかり自宅療養をして感染拡大を防ぐこと。そんな、地道なルールを一人ひとりがしっか りと守っていくことがきわめて大事です。 
なるべく多くの犠牲者を出さないよう、なるべく一時に大勢の患者さんが医療機関に殺到しないように、な るべく多くの人が、被害を最小限に食い止める有効な対策を理解してくださることを望みます。 
 皆様のご協力を切にお願いいたします。 


2009年10月05日
あ、泣きやんでいる
これは、2009年10月に岩田こどもクリニック待合室に掲示されたエッセイです。

1歳半健診でクリニックを訪れるこどもたち。性格もだいぶはっきりしてきます。
ときどき初めの身体計測のときから診察が終わる最後まで、ずーっと泣きっぱなしの子も見かけます。もし かするとその子は、ふだんからちょっとしたことですぐ泣いて、お母さんも少し持て余し気味なのかもしれ ません。
・・・この子はいつも泣くんです・・・。
・・・いつもは泣かないのに、病院にくると泣くんです・・・。
・・・この子は病院がキライみたいで・・・。
と、お母さんも落ち着いてはいられないのか、言いわけのような言葉を口にします。
でも、クリニックのスタッフは、小さい子が泣いても、まあ、たいていは平気です。こどもたちは泣くも の、とわかっているからです。こどもたちは泣いて何かを伝えようとしている、と受け止めています。
こどもが泣いてばかりで、お母さんは本当に困ってしまっているように見えるときもあります。でも本当 は、そのお母さんの困っている状態が、逆にこどもを困らせてしまっていることもあるのです。
まだ生まれてから何年も経っていない小さい子は、まだまだお母さんとは一心同体と言ってもいいくらいで しょう。お母さんの気持ちはこどもの心にすーっと伝わります。お母さんの困惑、緊張、イライラ、小さい 子にはみんな、いわば筒抜けなのです。言葉を使わなくても通じてしまうのです。
こどもが泣きやまなくて困ってどうしようもないときは、お母さんも一緒に泣いてもいいんですよ、ともお 話しています。いっそ泣いてしまうことで、緊張がほどけて、母子ともにリラックスできることもありま す。お母さんが緊張していると身体全体がこわばっているのか、抱っこされているこどもも、なんだか居心 地が悪いのかもしれません。こどもはたいてい泣いてしまいます。
クリニックでの健診というのは、非日常的な場面です。
「この子はちゃんと育っているかしら?」とお母さんも心配で、精いっぱい、こどものいい面を見せようと しているかもしれません。それでいつもよりずっと、緊張してしまうこともあるでしょう。「そんなにがん ばらなくていいのですよ」と聴診器を当てながら心の中でそっと思ってしまいます。
こどもが泣きやまないと、ときにはお母さんも困ってしまって逃げ腰になりがちです。するとこどもは、自 分から離れていってしまいそうなお母さんの「あと追い」を始めます。
「あと追い」が激しいときには、この追いかけっこを逆方向にしてしまえばいいのです。泣いていてもなん でもいいから、お母さんが心でこどもを追いかけるのです。しっかりと腕の中につかまえたこどもをふんわ りと、まるごと包み込んでしまいましょう。そうすると、こどもはいつのまにか安心して泣きやみ、あと追 いも終わるでしょう。いつも一緒にいてくれるお母さんを追いかける必要がないことがわかるからです。そ して、やがてはお母さんから少しずつ離れても大丈夫になるでしょう。
そんなことを健診の最後にお話することもあります。
「ああ、そんな簡単なことだったんだ!」とお母さんに納得していただけた時、気がつけば目の前でずーっ と泣いていた子が、いつのまにか泣き止んで、うそのようにおだやかな表情になっています。
 あ、泣きやんでいる!そして、お母さんもやわらかな微笑み。
そんな場面に出会うと、お母さんもこどももスタッフも、みんなで幸せな気分になってしまいます。

2009年11月05日
パパだーいすき、ママだーいすき!
これは、2009年11月に岩田こどもクリニック待合室に掲示されたエッセイです。

かつて長男が寝起きしていた部屋には、今も一枚の記念写真が写真立てに入れて飾ってあります。
生まれたての赤ん坊が若い母親の腕に抱かれ、若い父親にこれまた抱っこされている小さな男の子。4人それ ぞれにやや緊張した面持ちで一緒に写っています。家族の写真です。
いつだったか、
「これはね、ウチの家族みんなで撮った初めての写真だよ。」
と兄は弟に説明をしていました。もしかすると、遠いその日のことを覚えていたのでしょうか?
4人で写した初めての家族写真。それが撮られたのは、次男を出産し、産院を退院する日のことでした。もう 29年も昔のことになります。
「パパだーいすき、ママだーいすき!」
長男がまだ3歳になる少し前。小さい子特有の、はずむような明るくかわいい声が、今も耳に残ります。とび っきりの笑顔も目に浮かびます。
弟が誕生する前後、祖父母のもとに2週間くらい預けられていた長男が、やっと親の手元にもどってきまし た。その日は、ニューフェイスの弟が加わって4人家族として初めて自宅に帰る日でした。
産院の外来待合室で、家族みんなで呼ばれる順番を待っていたときのことです。そのとき何があったのか良 く覚えていませんが、長男は声を張り上げてこんなにもかわいいセリフを何回も言ってくれました。
「パパだーいすき、ママだーいすき!」
たまたま近くを通りかかった看護婦さん。思わず足を止めて、「まあ、なんてかわいいの!この子ったらか わいいことを言ってる!」と、にこにこ笑顔で応じてくださったことを覚えています。久しぶりに両親そろ って一緒にいられることが、きっとうれしかったのでしょう。
もちろん、そんなすてきなことを言ってくれた本人は、パパからもママからも、それまでにたくさんの「だ いすき」「だーいすき」という言葉のシャワーを毎日のように浴びていたのです。
初めて親元を離れて、けなげにも一人で祖父母の元で何日間もお留守番をして、ホームシックになることも なく楽しく過ごしていてくれました。言葉にはできなくても、離れていたってパパともママとも心の底でし っかりつながっている、小さなからだ全体でそう感じてくれていたのだと思います。
 大好きなパパとママと小さな弟と、これからはずっとみんな一緒。彼はその日、そのことがうれしくてた まらなかったのでしょう。
退院の日に、次男を取り上げてくださった産科の先生が、記念に写真を撮って写真立てに入れてプレゼント してくださいました。それが、わが家で初めての家族写真。
4人家族の出発の記念です。

2009年12月06日
小春日和の休日に
これは、2009年12月に岩田こどもクリニック待合室に掲示されたエッセイです。

一日中、クリニックに閉じこもって仕事をしていると、ほとんどお日さまの光に当たることがないので、時 間の経過がわかりません。冬になると、夕方、患者さんが「こんばんは」と挨拶しながら診察室に入ってこ られて、「えっ、もうそんな時間?」と驚くことがしばしばです。外はもうとっくに日が暮れて暗くなって いるのに、中にいると気がつきません。そんな今日この頃です。
 お天気のいい日などは、家でゆっくりしていられたらなあ、なんて思うことがしばしばあります。仕事を するのが惜しいような、晩秋から初冬にかけて時々訪れる美しい日々。
 先日、たまの休日に、そんな一日がありました。
 風もおだやかで、いいお天気。家の中で一番日当たりのいいところでのんびりと過ごした一日でした。家 人も出かけてしまったあと、以前からずっと先送りにしてきた衣類の修繕をしました。
 空は雲ひとつなく、暖房をつけなくてもぽかぽかのあたたかさ。ガラスごしの太陽のまぶしいこと。じっ と座っているだけなのに、じんわりと汗までかいて、なんとゆったりと満ち足りた気分。自分のからだに も、なんだかとてもいいことをしているみたいな、そんな気分です。
・・・お天気がいいからって、どこかに出かけなくちゃならないこともない。
 どこにも出かけなくても、こんなにも豊かな太陽の恵みを今、からだじゅうで感じることができる。
着るものがちょっと傷んだからって、すぐ新しいものを買わなきゃならないこともない。
 家にある材料を使って、少し手直しをすれば、衣類は再生されて、また着られる。
それまで自分が使ってきたモノをさらに大事に使い続けていくことはとても豊かなこと。
 心おだやかに、自分の居場所で、ゆったりと時間が過ぎていく。
 いま、ここで、自分の手の中にある幸せな時間と空間。
何も無理をしない。何も無駄にしない。そしてそのことがこの上なく心地良い・・・。
そんな時間を本当に素晴らしいものなのだと心から思えました。
もしかすると、その昔、こんなふうに祖母や母たちもゆったりと過ごしていたのかもしれません。それが心 の奥深くのどこかに記憶されていて、こんな至福の時間に自然と導かれたのかもしれません。
そんなことを考えていたら、冷蔵庫の中で傷みかけていた2本のバナナのことが頭をよぎりました。できるだ け見ないように、意識もしないようにしていたバナナたち。でも、ゆったりとした気分に押されて、バナナ ケーキに変身させよう、と思い立ちました。やがて、ケーキの焼きあがる良いにおい。
久しぶりに味わう、ゆったりとしていて人間らしい時間。なんて幸せ。
そんな小春日和の休日でした。
 生身の人生は、けっして、こんなにぜいたくな時間ばかりではありませんが、少しでも心のゆとりを忘れ ずに、日々を過ごしていたいものです。
新型インフルエンザ対策に追われ続けた2009年が、暮れていきます。






医療法人社団 恵翔会 
岩田こどもクリニック岩田こどもクリニック


〒262-0033
千葉市花見川区幕張本郷2-36-21
       ワンダーランド1A
TEL    :043-275-3515
診療科目:小児科・アレルギー科
休診日 :木曜日・日曜日・祝日・土曜日午後
開 院 : 1994年12月16日


病児保育室「うさぎのあな」
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